ぽつり、ぽつり。空から降ってきた水滴が木の葉を濡らしていく。深緑の葉。地に落ちて腐敗した果実。決していいとも言えない足場を了平は歩いていた。鉄のような、鼻を突くような決して気分のいいとは言えない匂いが雨の匂いに混じってくる。
少し開け、丘になった場所に1人の男が座っていた。
(こんなところにいたのか)
呆れ半ば、了平はその男に近づく。足元には、屍が転がっていた。
「慈雨って言うらしいっすよ」
「何がだ」
足を止める。気配を完全に消していたつもりだったのだがな。
了平の質問に答えるように、その男は天を指す。どんよりと曇った空だ。そして、その指は眼下に広がる農村へと移る。荒れ果てた田畑、収穫の近い野菜や、苗、井戸。
「恵みの雨ということか?」
「はい。スクアーロが言ってた。これが俺なんだって」
「そうか。それより、早く帰って来んから沢田が心配しておったぞ」
「もうちょいしたら、帰りますよ」
ひどく気のない声。抑揚がなく、感情など全くこもっていない。手には鞘から出したままの刀。赤く染まっており、今までここで戦いがあったことを鮮明に語っていた。
血の匂いが未だに鼻を突く。山本は幾度となく刀を見ては溜息を洩らし、再び農村へと目を向ける。
「こんな場所に、よく長時間おれるな」
「え、そうっすか?」
初めて、山本が振り返った。この場にいることが平気だということ以上に、了平にとってその姿の方が衝撃的だった。
顔には血が点々と付き、シャツにもべっとりと付着していた。泥なのか血でそうなったのかが分からない程、山本のシャツは黒ずんでいた。
「山本、それは」
「ん、これっすか?」
そう言って血の付着する刀を持ち上げる。
「血が付いちゃったんで雨で流してんすよ。布で拭くと汚れちゃうんで」
「いや、そうではなく」
「服も汚れちゃったし、また新しいのを買うしかないっすよね。はははっ」
口元を吊り上げ、血の付いた顔に白い歯が見える。体中に悪寒が駆けまわるのを感じ、了平はぞっとする。そんなことお構いなしに、山本は言葉をつないでいく。
「ったく、迷惑な奴らっすよね。暴れるだけ暴れて、最期は一瞬ですよ?おとなしくしてりゃ、殺されずにすんだのになぁ・・・ははは」
山本が再び口元を吊り上げて笑う。目だけは冷血に無表情なままで、道化のような奇怪な笑み。
気付いた時には了平は、山本の胸倉を掴み視線をぶつからせていた。
「急に、どうしたんすか」
無表情を通り越し、無感情と言った方が今の山本にはぴったりだった。山本の瞳は光を失い、いつもの精気に充ち溢れるような力強さは消え失せていた。
「どこまでが本音だ」
「は?」
「どこまでが山本の本音なのだ!」
こいつは山本ではない。あって欲しくない。
「全部。だってこいつら、ファミリーに攻撃して来た上に、そこの農村を襲ったんすよ?死んで当然っすよ」
「今までの山本なら、決して殺したりなどせんかった!」
了平は目の奥が熱くなるのを感じながら、声を荒げ続ける。前みたいに笑って欲しい。甘いと言われても、決して人を殺さなかった山本に戻って欲しい。ただ、それだけだったのに。
「1人殺しちゃったら、2人も3人も同じだなぁって・・・」
ポツリ、ポツリと雫が2人の頬を伝って落ちていく。乾いた地面に跡を残してはすぐに消え、また新たな跡を作る。
「山本、おまえはこの雨を慈雨と言ったが、オレはそうは思わんぞ」
胸倉を掴んでいた手を、山本の背中に回す。
「すまん」
もうこいつにこんなことをさせたりしない。了平は力強く山本を抱きしめる。
くぅっと小さな声を漏らした山本の体はとても冷たく、わずかに震えていた。
ぽつり、ポツリと雨は降り続く。
―
人を1人殺したら魂が削られる感じがして、自然に笑えなくなるとこの前某ドラマで見て、山本が心配になってきたとさ。完全な黒山本は書きたくないと。山本もツナも了平も変わらないでほしいですね。
自分にしては結構初めてな書き方なんで、やっぱ文章力ないなとふがいなく感じます。
涙雨はぽつぽつと少しずつ降る雨のことらしいっすよ。
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